「ダイアナがなぜ灯台へ?」
「あの子はお前の主人だろう。なぜあの子に聞かず、わしに聞くのだね?」
「ほう……」
「信じないのかね?」
「信じるか信じないかは関係ない」
レイザーは同意できないというように、低い声で言った。
「だが俺が今ここでお前を逃せば、お前は人類の船で遠い太陽王国へと逃げのびて、その庇護を受けるつもりなのだろう。そうなれば、もうお前から何も聞き出すことはできなくなるからな」
「わしは内通などしておらん!」
ヤルミは息を吸った。不安で呼吸が乱れる。
「トカゲジジイ、下手な演技はいらない。ここには俺とお前しかいないんだからな」レイザーは冷たく言い放った。
「あの貨物船から出てきたのが誰なのか、あいつらがお前に何をさせているのか、この俺にはすべてお見通しだ。あいつらのことはよく知っているからな」
「なんだと……!」
「だが、まずはお前のことだ。お嬢様が灯台へ行ったというならば、お前は今どこへ行くつもりだったんだ?」
「もちろん市場の仕事を見に行くのだ。他に何があるというんだ」
トカゲ人間は声を荒げた。
「汚い仕事は他人に任せ、自分は港を堂々と闊歩するというわけか」
「戯れ言はよせ、人間。わしは仮にも王室の一員であるぞ。お前がここでわしに手を出せば、ジュアン家の未来にとっても良いことはない」
ヤルミは歯をむき出し、杖を打ち付けた。
「わしは港の市場を掌握し、莫大な資産を持っているんだ。わしを殺した後に何を得られるというのだ。お前たちはそれを考えたことがあるのか?今より少なくなることは確かだ。いいか、今わしを殺してしまえば……」
「いい質問だな」
レイザーの声が低くなる。
「お前は正直だから、俺も少しばかり本音を話してやろう。ジュアン家の未来など、俺にはどうでもいいんだ。ジュアン家だけじゃない、お前たち全員どうなろうと俺の知ったことか。お前らは権力に溺れ、国をむちゃくちゃにして、勝手に愚かな欲望の中で死んでいけばいいんだ」
「バカを言え、この世に欲望のない奴などいるものか……お前の要求は何だ……言うがいい。どうすればわしを放す気になるのだ?」
ヤルミは手を震わせながら、視線を手元に向けた。杖に仕込まれた毒矢を放つチャンスを窺っているのだ。角度を合わせて力を入れさえすればいい。
だがレイザーもヤルミの企みには気づいていた。口元に嘲りの笑みが浮かぶ。
「では、この質問に答えれば放してやろう」
レイザーは残酷に微笑み、刀でヤルミを軽く突いた。
「――あのダイアナが影武者だということは知っているのか?」
「何だと?」
ヤルミの指先の動きがピクリと止まった。
レイザーの刀がその一瞬をとらえ、トカゲ人間の体に音もなく切り込んだ。慣れた手つきで正確に差し込まれた刀は、抜き取る時も同
「答えを間違えたな」
レイザーは淡々と呟くと、踵を返してその場を離れた。 目的地はただ一つ。遠い岬の赤い崖の上にある、廃墟となって久しい灯台だ。ヤルミの言葉が間違っていないなら、少女はそこにいるはずだった。
とにかく、そこへ急ぐしかない。